川崎競馬厩舎訪問 〜小向トレセンにようこそ〜 2016/5 久保秀男厩舎


◇この記事は川崎競馬馬主協会ニュース 2016年5月号に掲載されたものです◇



6人兄弟の長男として育った久保秀男調教師。次男は久保勇調教師騎手、三男はエスプリシーズを担当していた久保ひろかず厩務員という競馬一家。
かつて春木競馬のリーディングに輝いたこともある父の國男さんはその後、園田や高知に厩務員として移ったが、長男である秀男師を騎手にしようと幼少の頃から厳しく仕込んだ。小学2年生から馬に跨り、厩舎作業の手伝いもした。母方も春木競馬に従事し馬の買い付けで全国を回っていたという。

「中学1年生の時に家へ帰ると、大沼厩舎の調教師補佐だった武井利夫さんが来ていてね。父親からいきなり『お前は明日から川崎に行きなさい』と言われたんだ。 あっという間に荷物をまとめて飛行機に乗せられて川崎にやってきた(笑)」。
武井利夫さんは武井榮一調教師の実兄。 高知の浜でバク転して遊んでいる秀男少年の運動神経を見込んでスカウトにやって来たのだった。
騎手を続けられなかった父の願いが思わぬかたちで動き出した。

きっかけを作ってくれた武井利夫さんが以来、競馬界での父代わり。武井榮一調教師は兄のような存在になった。
1980年に大沼五郎厩舎から騎手デビュー。当時は重賞に騎乗するには減量特典を返上しなければならず、オープン馬の宝庫だった大沼厩舎、武井厩舎を中心に騎乗するため、 わずか9ヶ月で減量を自主返上。結婚を機に軌道に乗り、668勝を挙げて39歳の時にステッキを置いた。
「騎乗数にしても勝ち鞍にしても、もっと貪欲に乗ればよかったと今改めて思う」と騎手時代をふり返るが、 弟の勇さんや弟デシの甲斐さんが騎手デビューすると根っからの長男気質で騎乗馬を譲ることもあった。

1990年秋に中京競馬場に新設された地方馬による芝2000mの第1回ターフチャンピオンシップが印象深い。 地元名古屋や笠松、新潟、高崎、そして川崎から参戦したのがユニオンリーダー。笠松の女傑マックスフリートや高崎の二冠馬リキポートを尻目に直線先頭に立つと3馬身突き放して優勝。 久保秀男騎手そして武井榮一厩舎にとっても初重賞制覇となった。

イシノカサブランカでの初出走初勝利で始まった調教師生活も13年。2007年クラウンカップ、2008年報知オールスターCをエスプリベンで勝っているが、このレースが今では川崎リーディングの山崎誠士騎手の南関東初重賞勝ちでもある。
「馬づくりについては子供の頃からの経験や、大沼、武井厩舎で培ったノウハウが生きた。厩舎は個人プレーだけど、それをうまく組み合わせてチームプレーにしていきたい。 厩務員自身が馬と距離が近いぶん気がつかなかったり見えなくなっている部分を調教師や周囲が察することは大事だし、厩務員同士でもそう。原因がひとつじゃないことは多いからね。それぞれ切磋琢磨して向上しながらも、気づいたことを出し合って改善できたらと思う」というのが久保スタイルだ。

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