<生産者 北斗牧場>
「ええ、覚えていますよ。印象に残らないという点でね。」離乳時からジェネスアリダーを見てきた中島重徳場長(北斗牧場 静内トレーニングセンター)はこう切り出した。小さくてボサボサで垢抜けない馬、それがホクトプロスパーの11、牧場時代のジェネスアリダー。同期の仲間よりも出遅れた点で‘目立った’という。しかし馴致を進め運動を始めると徐々に変わってきた。
「乗り手の思うとおりの動きをする」のだ。非常に素直で性格の良い馬。「どんな馬が走るのか、本当に不思議ですよ。でも『素直』というのは馬が走るのに重要な要素だろうと思います」(中島場長談)
「2歳のトレーニングセールに上場しましたが『主取り』(※注 上場者・購買者間に価格差ありで不成立)に終わった。自分のところで所有してもいいか、という気持ちもあった。ところが翌日になって馬主さんが戻って見えた。別のセリの途中で「(ジェネスのことが)どうしても気になって」引き返して来たという。現在の活躍は馬主さんの審美眼ならぬ審「馬」眼が冴えた結果である。2つ上の姉アミー(byアイネスフウジン)は1勝馬ながらその1勝は桜花賞だし、兄たちも東海で7〜8勝を挙げている。当時の写真があればお借りしたい、とお願いしたが「残念ながら無いですね。写真を撮ってどなたかに勧める馬ではなかったですから」
<桑島孝春騎手>
姉が活躍した馬でしょ。これは大事に乗らなきゃナ、と思いましたね。二戦目でしたか、ボーンと行っちゃったんですが、これは失敗でした。そのあとゲートでパニックになることが続きましたから。あの時、勉強させておけば良かったと反省しました(笑)。 気性的にはまだイライラしている未完成な面もありますが、この馬の良さは「斬れる終いの脚」。素晴らしい切れ味を持っています。戸塚記念はいろんなことを考えて思い切って逃げましたが、この脚を生かしたレースをさせてあげたいですね。 |
<八木正喜調教師>
正直いって、最初預かった時はここまで走るとは思っていませんでした。それが、あれっ、と思ったのは新馬戦を前にした追い切りの時。競馬前の若馬がハロン11秒を切る動きをするんですから、驚きましたね。 新馬戦は絶対勝てると自信満々。二戦目に距離延びてもあっさり。3戦目はハイセイコー記念へ臨むために大井を使いましたが、この時は大きく出遅れて発送委員の方に叱られました。初めてのナイターで入れ込んでしまったんでしょう。しかし続けて大井を使った時もゲートにへた張りついちゃって。川崎だとスンナリ出るんですがね。ハイセイコー記念の時もそうでした。鎌倉記念はかなり調子が良かったんで、もしやと思っていたら嬉しい初重賞になりました。開業5年目でしたから恵まれてますよね。全日本2歳優駿の時は競り合って決まったかと思った時にインから抜けられて。春は予定通り三冠に挑戦。羽田盃前に間隔とりましたから、本調子とは行きませんでしたが、それでも5着。ダービーは外を回るかたちになって、追い込んできた時は、勝ち馬が前で楽をしていたぶん届きませんでした。道中ぶつかる不利もありましたから。JDDのあとは60キロを背負った黒潮盃。レースの様子をみるとやはり負担は大きかったようです。戸塚記念はおかげさまで2つ目の重賞タイトル。被されるかたちになってはいけないと桑島騎手が大事に乗ってくれたことが勝因だと思います。ここまで、12戦。使いながら筋肉に張りも出てきましたし、精神面もだいぶ逞しくなっているように感じます。まだまだ先を目指して成長してくれると思います。
<大沼秀男厩務員>
「使ったあとの反動が大きい馬なので目が離せません」といいながら愛おしそうに手入れをしている大沼秀男厩務員は昭和31年から従事するベテラン。八木正喜調教師の父である故・八木博調教師の代から仕えてきた。八木正喜厩舎に移ってからはまだ2年だが最初の担当馬がこのジェネスアリダー。北海道網走郡出身。 |